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映画君たちはどう生きるかを見ました(ネタバレあり感想と考察)

君たちはどう生きるか をみました。ジブリが事前情報を出さないことに徹底しているし、私も事前情報なしで見てほしいな〜と思うのでちゃんと感想を書いてなかったのですが、こういう話だと思ったというのを書き留めておこうと思います。

ネタバレがあります。映画を見た人が読むことを推奨します。

この話、創作者である大叔父様が、その創作業の承継をいかなる経緯で断られるか、というところに焦点を当てている話だと思います。
そのため、お話の主人公は大叔父、または大叔父の作った世界ですが、そこにフォーカスを当てていると事情がわからないので、継承者である真人にフォーカスが当たっています。

大叔父は下の世界を作り、運営し続けてきました。ですが、長年の運営で破綻が生まれてきます。その象徴がペリカンなのでしょう。彼らは魚が獲れないので、わらわらを食べるのだと語っています。
ですがおそらく……彼らが食べる魚がないのは、わらわらを食べさせるために殺生を許された人間(死者ではない、下の世界の住人)が獲っているからでしょう。彼らは自分たちが食べる分だけではなく、人を食わせるためにも殺生を行わなければなりません。ですので…おそらく、適当な量、というのを見出しかねているのかもしれませんね。また大叔父が連れてきたインコも数が増えすぎてしまい、住むところにも困るようになっています。
大叔父が塔や石からインスピレーションを受けて「世界」を作った時(※これが現実世界に本当に作用する世界なのか、あるいは大叔父の「創作」の世界なのかについては、どちらとも考えようがあるので一旦保留します。実際失踪してるので合いの子なのかな〜とは思う。作用はしてるけどさほど強力ではないというか)、「輪廻転生」の世界を作りたかったのでしょう。ですが現実世界からやってくる死者は殺生ができず、にもかかわらずわらわらには食事が要る、という世界観にしてしまった、その上に好きなものを考えなしにポコポコいれてしまったので、徐々に世界(ものがたり)が崩壊しつつある、というのが、真人が訪れた時の世界が抱える事情だったのだと思われます。
最初はSFを描きたかったのに別ジャンルになりつつある、これはまずいぜ、という話です。

その原因を、大叔父は「まあ自分も歳だしな」と考えている。自分の創作世界を打開する手立てがもう見つからない。手癖でずっとお話を書いてしまう(と本人は思っている)。であれば。誰かに引き継いでもらって、引退したい、と考えているわけです。
しかしそれは、自分の血縁者でないといけない。
そこで白羽の矢が立ったのが真人です。
ですが真人は断ります。お前のような、悪意のない人間に世界を構築してほしい、という大叔父の言葉に対して「私には悪意があります。だから無理です」と。
あんなに真面目そうな真人の一体どこに悪意が?!その答えと、それに至る理由を説明するのが、前半、というか現実のパートなのでしょう。
悪意があります、というに至った理由は、本人が言うように「派手に喧嘩したように見せるために自分で自分の頭を傷つけた」こと……というか、それが思った以上におおごとになってしまったこと、その傷が一生残るかもしれないと言われたこと、それを恐れている・後悔していること、でしょう。
すこし話が脱線するのですが、真人の父、結構顔が怖くていいな〜と思いましたね。ギラギラしてていかにも家長!って感じだし、母さん死んでるのにすぐ妹と再婚するしで、真人にとっては少し怖い存在だったのかもです。
当時の日本では、配偶者が死んだ時にそのきょうだいと再婚することは一般的でした。だからこそ、直人も夏子さんも、直接的な感情は表に出せていません。が、子供にとって母親が変わること、また妹である夏子さんにとっても、姉を喪った悲しみもそこそこに結婚することになったこと、その受け入れ難さは尋常でなかったと思います。献身的に尽くしているのになかなか心を開いてくれない真人に「思っちゃいけないけど…」と思いながらも、やはりイライラ…というか歯がゆい気持ちでいた夏子さんの心情をあの短さで描いてるのはすごいな〜っておもいました。
真人の頭の傷は、(作画のミスでないのなら)夢の世界をうろうろしている間にも、治ったり悪化したりしています。真人が自分に悪意があると吐露するシーンでは分かりやすく傷が開いてますね。きちんとみたら他のシーンも、彼の自意識というか、罪悪感のようなものに強く紐づいているのかもしれないです。
あと顔の側面にあることで、カメラの位置次第では全然髪の毛が刈られてることがわからないのもいいですよね。あくまで真人の本質ではなく、彼の一時的な側面を示しているだけなのが伝わってきます。

さて、そういった真面目な理由でお断り申し上げる真人に「いいから!!!ちょっとだけ!!!ペンを握って線を引いてくれるだけでいいんだ!!!」と狼狽える大叔父。そこから生まれた「キャラクター」である大王は彼の姿に激怒し、世界の理である積み木を斬ってしまいます。まあそうですよね…。大王は大王なりにインコの国をまとめあげようと頑張っていた、大叔父の作った世界を「生きて」いたわけです。なのにごめん!コンセプトがミスってたわ!といわれたらめっちゃキレますよね。
結果、大叔父の世界は崩れます。大叔父のインスピレーションの源であった塔も崩れます。みんな現実世界に戻れて、ハゲが残るかもと言われていた真人の髪もすっかり生え替わります。よかったねえ。
アオサギが「普通忘れるもんだ」といっていたのに、真人は下の世界でのことをしっかり覚えていました。でも、東京に戻った時の真人が覚えているかは、わかりません。
これ↑↑↑↑ あ〜「物語」との距離感だなあ、って思いました。ただ監督が幼少の頃読んで、今に至るまで忘れられなかった「君たちはどう生きるか(原作)」をタイトルに借りた、ということは、きっと真人にとっては忘れられない時間であることでしょう。
ですので。世界そのものを継がせることはできなかったけれど、創作物やそれがもっている世界のミームはそうやって受け継がれていく。そういった作品に見えました。インコたちも下の世界から出て来てましたしね。

さて、大体のことがまとまったところで、ではなぜ大叔父は世界を継承する人間が「悪意のない人間」と「血のつながった人間」と考えていたのでしょうか?

まず、「悪意のない人間」については別の作品にヒントがあります。
私もフォロワーさんに教えてもらったのですが。アルノルト・ベックリンという人が描いた絵に「死の島」という絵画があります。絵に使われているモチーフは、君どうの下の世界に通ずるものがあります。

ja.wikipedia.orgこの絵はそれはもうたいそうな人気があったそうです。一般家庭に複製画があったレベルだったそう。ですが、その人気さゆえに、文学や音楽以外にも、スローガン、プロパガンダ、コマーシャルに転用されることもあった。レーニンヒトラーといった政治家が好んだことでも有名らしいです。
作品そのものが持っている世界は作者にしかわからない。だけれども、それを受容する人の種類や数によって、作品が持つとされる意味や印象は大きく歪められる可能性がある。そういうものを示唆する形になってしまったのが「死の島」であると考えます。
そのことからも大叔父は、そういった外的な思想に自分の作品が歪められることを恐れたのだと考えます。それが結果的に「悪意のない人間」に継がせる、という意見に至ったのでしょう。

ではなぜ血縁者でないといけなかったか。これは大叔父の意見ではなく、「石」がそう告げているわけですが。
これは、宮崎駿監督とその息子宮崎吾朗監督との関係を抜きに語るのは難しいのではないか、と思います。
宮崎駿監督と宮崎吾朗監督の「親子関係」については、正直推測の域を出ないのであまり詳しく書かないようにと思いますが。
大叔父は、ある意味宮崎駿監督そのものではないか、と思います。彼もまた、一度は「自分の世界」を継承する者が必要であると考えたかもしれません。そしてそれは、血縁者……つまり自分の息子でないといけないと考えたことがあったのかもしれない。ですが大叔父同様、それは諦めたのかもしれない。
であれば。
私が死んだら、私が作ってきた世界は終わりだ。
父が死んでも、父の作る世界を私は継がない。
そういたします。
ですのであなたたちはこれからどうするか?
もし「ジブリ」から受けたミームが確かにあなたの中にもあるのなら、あなたはそれをどうするか?
ジブリ世界を「継ぐ」のはできないので、なんか自分で考えてね!
それがこの映画の「テーマ」ではないかなあ、と思いました。
もしそうであれば、「ジブリあるある」というか、「俺たちがジブリを見ていて好き❤️って思う描写」を全部入れてやるぜと言わんばかりのジブリがいっぱいコレクションにも納得がいくな〜と思ったりします。この映画には、宮崎駿監督が培ってきた(培ってきてしまった)「ジブリ映画のミーム」が、仕送りのように詰まっているのです。
あと、自分の世界を壊されるなら、自分の世界から生まれたキャラクターたちに壊してほしい、という欲はあったのかもしれないです。少なくとも、私は大王が積み木をぶっ壊すシーンを見て、「大叔父よかったねえ」と思いました。自分が生み出した世界から生まれ出でたものが、ある意味ちゃんと後始末をしてくれたわけで。創作者としてこれほどの救いもない気もします。

いや、でもほんと、映画としては、

ウワ!!!ショタコンになる!!!!に尽きる
はい!見てくださいショタのこの〜〜〜寝顔!!!見ましたか?本当に?まつげも?みたいにカメラ寄るシーン、ヤバかったな。
そんな感じで。面白かったです!